
| 銀座8丁目の交差点の程近く。重厚な木製の扉にほんの少し気後れする。扉を開くと、まっすぐな階段が下へと延びている。 たどり着いた「バー武蔵」の店内は、地下にある店とは思えぬほど広々としている。花梨の材を用いたカウンター。カフェを思わせるようないくつかのテーブル席。奥には背の低いソファー席まで。入り口に立ったときに感じた緊張がスッとほどけていくような、開放感すら味わえる雰囲気に包まれている。 カウンターの向こう側では、笑顔を絶やさぬ明るいスタッフたちが出迎えてくれる。必要以上に飾ることなく、ありのままのスタイルでリラックスすることができるのが、バー武蔵が愛される理由なのかもしれない。 この店のほかに、3つのバーとイタリアンレストランを束ねるのは、オーナーの武蔵昌一さん。武蔵さんは、バー武蔵のあり方を、古い格言を引き合いに出して表現する。 「欧米では、『悩み事があったら教会へ行け。それでも解決しなかったら帰りにバーに寄れ』と言われます。それはなぜか。悩みを聞いた牧師さんは、『神を信じなさい』『がんばって解決しましょう』としか言えませんよね。でも、バーテンダーは『人生そういうもんだ。しょうがないよ』って言えるんですね。そして『まぁ飲みなよ』と(笑)。そうやってざっくばらんなコミュニケーションが取れる場所がバーなんです」 |
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重厚な壁を開きたどり着くと |
バーテンダー歴20年を越える武蔵さんがこの道に興味を持ったのは、10代の後半。喫茶店でアルバイトをしていたときに、お客からかけられた言葉がきっかけだった。
「話したこともないお客様に『キミの淹れたコーヒーはおいしいな』と、突然言われたんですね。それが嬉しかったのかな……。その後お酒に興味を持って、大学時代はバーテンダーのようなアルバイトもして。いつしかこの業界に入っていました」
大学卒業後は決まっていた就職も袖にし、勘当覚悟でプロの道を選んだ。酒に触れること、お客と接すること。何もかもが面白く、充実していた。若き日の思いは、誰もが認めるトップバーテンダーになった現在も忘れることはない。仕事を楽しみ、会話を楽しみ、場の空気を楽しむ姿勢がスタッフに受け継がれ、店全体に浸透し、バー武蔵の雰囲気の源になっているのだろう。
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「情報の集約する場所」バーの便利な活用法
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武蔵さんは、バーを「便利な場所」と評する。あらゆる情報の集約する場所で、お客はそこで有益な情報を引き出すことができるという。 |
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多忙なオーナーが見出す「夢の続き」
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いまや5店舗の店をまとめ、20人あまりのスタッフを抱えながら、忙しい毎日を送る武蔵さん。その視線は常に前を向き、生きる楽しみに満ち溢れているようにも見える。
「若いころの夢は今よりはるかに単純でしたね。今は責任もあるし、一人だけの夢を見ているわけにも行かなくなってきたかな(笑)。あえて言うなら、“夢の続き”を見てみたいとは思います。店が増えるだとか人が増えるだとか、成功するというようなことではなく、自分が始めなければ生まれなかった物語の続きを見てみたい、ということ。自分の周りにいる、いろいろな個性を持った人間が、それぞれにどんな物語を紡いでいくのか。それを見ていたいですね」
武蔵昌一演出による、銀座を舞台にしたバー武蔵の物語は、多様な広がりを見せながら、これからも続いていく。