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当時、戦後の山王ホテルは、進駐軍に接収された米軍の将校クラブであった。最初は下働きから始まったが、先輩は何も教えてくれず、「見て覚えろ」という時代。勉強しようにも文献もなかった。1年ほど経過し、カタコトの英語で将校に、「カクテルレシピの本が欲しい」と頼むと、渡されたのは英語の本である。仕方がないので、辞書を引きながらカクテルやお酒を学んでいった。山王ホテルのバーで一番人気があったのは、マティーニである。
「あまりにもたくさんマティーニの注文があるものですから、ジンのボトルにベルモットを加えたものを瓶ごと振って冷やしておいたわけです。注文のたびに、ボトルのお酒をミキシンググラスで氷とステアして、グラスに注ぐ。多い日はボトルが5〜6本も空くほどでした」