「バーはね、近場の楽園なんですよ。数時間だけ異次元の世界に入ってもらって、また日常の世界に戻る。まずは、思い切って扉を押してもらえばいい」と、大泉氏。

バーテンダーになったきっかけをひもとくと、学校を卒業した後、就職難であったことからキャバレーで勤務。この時に知り合った人の口利きで、山王ホテルでバーテンダーの職を得た。

「お酒は世界各国にいろいろなものがあるでしょう。世界地図を見て、あの国に行きたいと思いを巡らすようなことと、同じような気持ちでしょうか。そんな文化に惹かれて、バーテンダーを目指すことにしました。」

当時、戦後の山王ホテルは、進駐軍に接収された米軍の将校クラブであった。最初は下働きから始まったが、先輩は何も教えてくれず、「見て覚えろ」という時代。勉強しようにも文献もなかった。１年ほど経過し、カタコトの英語で将校に、「カクテルレシピの本が欲しい」と頼むと、渡されたのは英語の本である。仕方がないので、辞書を引きながらカクテルやお酒を学んでいった。山王ホテルのバーで一番人気があったのは、マティーニである。

「あまりにもたくさんマティーニの注文があるものですから、ジンのボトルにベルモットを加えたものを瓶ごと振って冷やしておいたわけです。注文のたびに、ボトルのお酒をミキシンググラスで氷とステアして、グラスに注ぐ。多い日はボトルが５～６本も空くほどでした」

マティーニは大泉氏が大好きなカクテルである。これほど、数多くの小説や映画に登場し、数々の逸話を持つカクテルはないだろう。マティーニに対する大泉氏の思いは、同店のHP、コレオス通信の中で、何度も登場している。


60年代半ばになり、大泉氏はホテルニューオータニの主任バーテンダーとなる。ニューオータニ系列の施設での勤務を経て、大泉氏は、会員制のフィットネスクラブのマネージャー兼バーテンダーとなった。帝国ホテル、ホテルオークラと並び、元祖御三家と呼ばれる高級ホテルの会員制クラブとなれば、入会金の高さや審査の厳しさも推して知るべし。政治家や、財界人などの名士が集まる場所であった。

「バーテンダーであるという気安さから、当時の大臣もカウンターでオフレコの話をしたりしていましたよ。何度か通って頂くうちに、この方とこの方は合いそうだなと思ったら引き合わせることが私の仕事であると思いました。うまくいくと悦に入ったりしてね。ライバル企業の方であっても、トップ同士というのは、ある業界が日本で目指す方向性としては同じ。クラブの中では仲良くしていましたよ」

 『御年74歳になる白髪のバーテンダー、大泉洋氏が‘奏でる’ジャックローズ(※1）’』

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渋谷の喧騒を忘れる、オーセンティックバーが誕生
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会員制クラブで知り合ったお客様の中に、渋谷のファッションビル109の一角を保有していたオーナーがいた。何でも、喫茶店や美容院などを経営するが、なかなかうまくいかないので、大泉氏に助けてほしいという。物件を見に行った大泉氏は、若い女性ばかりのファッションビルという立地に驚いたという。

「1週間、109の前に立って考えました。バーのお客様の対象になる人はあまりいなかったけれども、この中の0.1％でも店のお客様になってくれる人がいれば、勝算があるかなと思いました」

階下の客層とは全く合わない場所ではあるが、駅から地上に出ることもなくエレベーターで昇れる立地である。1991年、渋谷の109の8階に、コレヒオが開店した。「渋谷は便利な立地だけれども、大人が行く店がない」と考える人達は多かったのだろう。大泉氏が会員制クラブで鍛えた接客もあり、コレヒオは伝説のバーとなった。

「ビルの規定で、23時には閉店する。来店したお客様が『これから飲もうと思っていたのに』、なんてぶつくさいいながら帰る。それでまた次の日に、『昨日、終電に間に合って助かったよ』といいながらまた来てくれました」

2004年、大泉氏は現在の場所に、コレオスを開店。スペイン語で、郵便局の意味を持つ。世界各国にある、人とのつながりの拠点だ。
「70歳になって、そろそろ自分で店をやるのもいいかなと思って」

ウイスキーやクラシックなカクテル、大泉氏の笑顔も健在だ。おすすめはグレンフィディックのウイスキーサワー（※2）。コレオスのお酒以外の名物は、トーフピザ1,050円。「お腹を空かせたお客様に、一皿で栄養が取れる料理を出そうと思って」大泉氏が考案した一品だ。豆腐の上に、オイスタースモーク、ソーセージに野菜、トマトソースとチーズをのせたもので、豆腐という和の材料を使用しながら、洋酒にも合う料理である。

「バーではね、一度恥をかいてもいいと思うくらいの気持ちで来ればいいんですよ。何度か通って頂ければ、こちらも相手のことがわかるから、それなりの対応をします。彼女をくどきたかったら、こっそりお手伝いしますよ」

一見でも、若いお客様でも大歓迎だという。そんな話をしていると、大泉氏と同年代の男性が、一人でふらりとやって来た。カウンターにいる大泉氏と軽口を叩き、サッと飲んで帰っていく。行き着けのバーを使い慣れた、人生の先輩はやっぱりカッコいい。老若男女、粋な大人が集まる店なのだ。

『スペイン語で、郵便局の意味を持つコレオス。世界各国にある、
人とのつながりの拠点を意味し、上手に体現している』

※1ジャックローズ　1,575円
カルヴァドスとライムジュース、グレナデンシロップで作成する定番カクテル。スタイリッシュな彼女へ。
※2グレンフィディック・ウイスキーサワー　1,890円
モルトの香りと、酸味が効いた爽やかなカクテル。シングルモルトで作るウイスキーサワーは、何とも贅沢だ。

ショットバー　コレオス   →「コレオス」の詳細情報   店舗情報　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　     住所 ：東京都渋谷区宇田川町28-1 高山ランド第15ビル8     電話 ：03-5459-1757     営業時間 ：17:00～翌2:00(月～土)／17:00～23:00(日)     定休日 ：無休     アクセス ：ＪＲ線渋谷駅ハチ公出口より徒歩5分／地下鉄各線線渋谷駅3A出口より徒歩3分     HP ：http://www.correos.jp/   メニュー　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　      チャージ　無し      サービス料　10％      響17年 1,575円      バランタイン17年 1,785円      山崎12年 1,575円      白州12年 1,575円      ザ・マッカラン12年 1,575円      グレンフィディック12年 1,260円      ボウモア12年 1,260円      ラフロイグ10年 1,260円      カクテル　1,260円～      トーフピザ 1,050円      チーズ盛合せ 1,050円      生ハム 1,050円      ピクルス＆オリーブ 1,050円      サラミ＆トースト　1,050円      オイルサーディン 1,050円      ナッツ(ミックス)　840円      チョコレート＆ドライフルーツ　840円

■バックナンバー
2008年8月：Ester/東京・中野　伊原孝樹氏
2008年7月：THE PLACE/東京・広尾　山本隆範氏
2008年6月：BAR東京/東京・銀座　八巻博和氏
2008年5月：Bar HEATH/東京・国立　大川貫正氏
2008年4月：ＢＡＲ　保志/東京・銀座　保志雄一氏
2008年3月：石の華/東京・渋谷　石垣忍氏
2008年2月：MONDE BAR/東京銀座　長谷川治正氏
2008年1月：バー武蔵/東京・銀座　武蔵昌一氏
2007年12月：スペリオ/東京・銀座　吉田均氏
2007年11月：銀座 ガスライト/東京・銀座　井口法之 氏
2007年10月：AW（アウ）/東京・渋谷　人見清子 氏
2007年9月：EVITA/東京・銀座　亀島延昌 氏
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